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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)143号 判決 1952年4月25日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

およそ、賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、賃貸借を将来に向つて、解除することができるものと解しなければならない、そうして、この場合には民法五四一条所定の催告は、これを必要としないものと解すべきである。

本件において原判決の確定するところによれば、被上告人は上告人に対し昭和一〇年九月二五日本件家屋を畳建具等造作一式附属のまま期間の定めなく賃貸したのであるが、上告人は昭和一三年頃出征し、一時帰還したこともあるが終戦後まで不在勝ちでその間本件家屋には上告人の妻及び男子三人が居住していたが、妻は職業を得て他に勤務し昼間は殆んど在宅せず、留守中を男子三人が室内で野球をする等放縦な行動を為すがままに放置し、その結果建具類を破壊したり、又これ等妻子は燃料に窮すれば何時しか建具類さえも燃料代りに焼却して顧みず、便所が使用不能となればそのまま放置して、裏口マンホールで用便し、近所から非難の声を浴びたり、室内も碌々掃除せず塵芥の堆積するにまかせて不潔極りなく、昭和一六年秋たまたま上告人が帰還した時なども、上告人宅が不潔の故を以て隣家に一泊を乞うたこともあり、現に被上告人の原審で主張したごとき格子戸、障子、硝子戸、襖等の建具類(第一審判決事実摘示の項参照)は、全部なくなつており、外壁数ケ所は破損し、水洗便所は使用不能の状態にある。そして、これ等はすべて、上告人の家族等が多年に亘つて、本件家屋を乱暴に使用した結果によるものであるというのである。(上告人主張の不可抗力の抗弁は原審は排斥している)かつ、被上告人は上告人に対し、昭和二二年六月二〇日、一四日の期間を定めて、右破損箇所の修覆を請求したけれども、上告人がこれに応じなかつたことも、また、原判決の確定するところである。

とすれば、如上上告人の所為は、家屋の賃借人としての義務に違反すること甚しく(賃借人は善良な管理者の注意を以て賃借物を保管する義務あること、賃借人は契約の本旨又は目的物の性質に因つて定まつた用方に従つて目的物の使用をしなければならないことは民法の規定するところである)その契約関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為であるといわなければならない。従つて、被上告人は、民法五四一条の催告を須いず直ちに賃貸借を解除する権利を有するものであることは前段説明のとおりであるから、本件解除を是認した原判決は、結局正当である。論旨は、被上告人がした催告期間の当、不当を争うに帰着するものであるからその理由のないことは明らかである。

上告理由第二点について。

本件解除の正当なことは前点説明のとおりであつて、これがため賃借人が住家を失う結果となるもこれ賃借人自らの所為にでたやむを得ない結果であり、その解除を目して権利の濫用ということはできない。しからばこれと同趣旨にでた原判決は正当であつて論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。

右は藤田裁判官の第一点に関する補足意見を除く外裁判官全員一致の意見である。

藤田裁判官の補足意見

自分は本文の判旨に賛成するものではあるが、更に、本件第一審および原審の判断と同じように、被上告人のした本件解除は、民法五四一条の要件に適つたものとしても有効と解してよいのではないかと考える。すなわち、賃借人は契約又はその目的物の性質によつて定まつた用方に従いその物の使用をしなければならないことは民法六一六条、五九四条の規定するところであり、これに違反した場合、賃貸人はその違反行為の停止を請求し若し賃貸人がこれに応じないときは、賃貸人は民法五四一条に従つて賃貸借契約を解除することのできることは勿論であつて、本件の如く賃借人が原判決認定にように甚しく前記賃借人としての義務に違反し目的物を損壊して、そのまま使用を継続するがごとき場合には、賃貸人は右違反行為の停止を求め契約の本旨に適した使用を求める意味において目的物の損壊の修覆を請求する権利があり、賃借人はこれに応ずる義務があるものと解するを相当と思料する。従つて本件において被上告人が相当の期間を定めて上告人に対し右義務の履行を求め上告人がこれに応じなかつたためにした本件被上告人の解除はこれを有効と解しなければならない。(昭和六年(オ)三七七一号事件同七年七月七日大審院判決民集一一巻一五号一五一〇頁参照)

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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